「灰羽連盟」を観た。同盟じゃない、連盟。間違えそうになるけど。なぜか。
一言で言うと素晴らしい。以上。
ってだけだとすぐに終わってしまうわけだが、心に突き刺さる作品というのは、こういうものを指して言うのだろう。
どこから来たのか。なぜそこに現れたのか。なぜ灰色の羽が生えているのか。そして、ある日突然どこへ行ってしまうのか。
壁で囲まれた街を舞台に、新しく灰羽として生まれた主人公ラッカと、同じ灰羽たちのそうした謎とともに物語の序盤は進行する。物語が進むにつれ、様々な出来事や灰羽たちに伝わる言い伝えなどから、少しずつそれらの謎の核心に近づいていく。まだ観ていない人には是非見てもらいたいので、それらの謎の答えは明かさないでおく。
しかし、これくらいならいいだろう。それらの謎の核心に迫っていく中で、わかることがある。これは灰羽だけに突きつけられた謎ではなくて、結局この物語を見ている我々が普段は意図的に考えないでいる問題そのものだと。
灰羽たちは、ある日突然この街に現れる繭の中で生まれる。繭から出てきた彼らの見た目は幼い子供から、恐らくハイティーンまで様々。言葉も話せるし、見た目の年齢に応じて分別というものもちゃんとある。ただし記憶のほとんどを無くして知らない街、世界に突然現れるため、否応無しに、先に挙げた謎をすぐさま突きつけられる。また、街で暮らすほとんどの人たちには羽がなく、我々の見た目と変わらないのも、なぜ自分たちだけが、という謎を深める要素になっている。
その一方、我々の場合は認識というものが形作られる時間的猶予がある。また、当然誰にも羽など生えていない。だからそうした謎に生まれてすぐに対峙することはない。しかし、結局は同じことなのだ。猶予期間を過ぎれば、灰羽たちに突きつけられるそれらの謎と同じものと対峙しなければならない。この作品は、普段は心の奥底にとどめているそれらの謎を、中学生のときのそれと同じようにほじくり返して突きつけ、対峙させようとしてくるのだ。
灰羽の問題が我々の問題であることは、物語の各所からも読み取れる。
壁に囲まれた街。一度壁の外に出たら帰ってこれない掟。壁の内外は、生死の境界のメタファに他ならない。そして、壁を行き来する謎の交易人。彼らと話すことが許されているのは街のごく一部の、手話を使える者たち。また、交易人に触れることは許されない。手話が霊能力、触ることができないのであるとしたら、死後を示す壁の外側とこちらを行き来する幽霊のメタファだろう。(ただし、物語の後半で触ることが出来るのはわかる)
そして最後に。ここまで話してきた内容だと、まあ正直そこまで絶賛するほどの話でも無かったように感じる。この作品が俺の心に突き刺さったというのは、やはり物語の最終回に鍵がある。時々考えさせられるエピソードを含む、ハートフルなほのぼの物語だと思って観ていると、最終回のどんでん返しにショックを受けるかもしれない。ただし、そのことをもってして、この作品が「毎シーズン消費されては、次のシーズンには忘れられるような作品」ではないことを決定づけているのだと思う。もし観ていない人がいたら是非観て、感想を聞かせて欲しい。いじょ。